パリの当たり前を日本でも。地元の美味しいものが揃うマーケット
2025.05.24
長野県の北端に位置する信濃町。県道沿いにたたずむグリーンの建物がオーガニック食材の量り売りと地元野菜を使った食堂を営む「バラックマーケット」さんです。
必要なものを必要なだけ。量り売りの楽しさを。
2023年にオープンした「バラックマーケット」は、信濃町を中心に約50km圏内のから届いた新鮮なお野菜や食品を販売する「マーケット」と、地元の有機農家さんから分けていただく野菜を使用した食事を提供する「バラック食堂」が併設されているお店です。食に関するおしゃれで楽しい書籍販売コーナーもあります。



バラックさんは、パリでファッション系の仕事をしていたオーナーさんが信濃町に移り住んだところから始まります。
(オーナー ヒサカワさん)
「この店舗を借りて3年くらいになりますが、その間に何をやろうかと考えていました。家の周りにたくさんの畑があって、新鮮な野菜を作っている方が近くに大勢いて、その野菜を買うことができる八百屋が地域にあればいいなと思って、ここで定期的にフリーマーケットを開いていた友人に相談したのですが、忙しくて手が回らないと…。八百屋は毎週開いていないと意味がないので、それで自分たちでやることにしました」
イメージしたのは、毎週開催されるパリのマルシェ。パリではマルシェでもスーパーマーケットでも量り売りが基本で、自分の欲しいものを買いたい量だけ買うことができるそうです。そして、新鮮な魚や旬の食材はマルシェでないと入手することが難しいことも多く、毎週決まった曜日にマルシェに行ってそのお店の店主と会話をしながら品物を買う…ということが普通に行われています。マルシェは、単なる買い物の場ではなくて、社交の場・情報交換の場でもあるようです。
いま、バラックはまさに地域の社交場のようなスペースになりつつある様に感じます。ご近所の小規模生産者さんたちが、朝どれの野菜を手に集まり、それを買いに来る人がいて、オーナーや生産者さんとの会話を楽しんでいる。そして、お店の奥にある「食堂」では、マーケットで売っているのと同じ野菜を使った美味しいランチを頂くことができます。
そして、食堂には地域の方から遠方の方までが訪れ、お客さん同士やスタッフさんとの会話を楽しんでいる…そんな活気のあるやり取りがここでは日常的に繰り広げられています。
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マーケットは、基本的には量り売りで欲しいものを欲しいだけ購入することができる仕組みです。葉っぱのついた新鮮な人参を2本と…採れたての卵を4個と…のようにかごに入れていく体験は、スーパーでは味わうことのできないワクワク感があります。



「日本のスーパーなどで野菜を買うと、流通に時間や費用がかかっているだけでなく、ビニールの包装などのいらないものも一緒に付いてきてしまう。その包装代も商品の価格に入っているわけですよね。その点で、地産地消は新鮮で安くておいしい」とオーナー。
私も取材をした当日にいくつかのお野菜を購入しましたが、その味の濃いこと。いままで食べていた野菜は何だったのだろうと思うくらい、味も香りも濃くて、力強い野菜たち。百聞は一見にしかずで、一度食べただけですっかり虜になってしまいました。遠方からもリピーターが多く訪れるのにも納得です。
プラントベースランチ&温石のおうどんランチ「バラック食堂」
「せっかくおいしい食材や珍しい食材が揃っているので、その場で調理して食べられるイートインスペースもあるといいなと考え、実現したのが『バラック食堂』です」。
バラック食堂では、木曜・金曜が料理家の室田HAAS万央里さんの“プラントベースランチ”を、土曜・日曜は、信濃町で日本料理とおうどんを提供する名店「温石(おんじゃく)」さんの“おうどんランチ”をいただくことができます。


木曜・金曜の“料理当番”である万央里さんはもともとパリで活躍されていた料理家であり、パリではケータリング業やレシピ本の出版、企業へのレシピコンサルティングなどをされていた方です。万央里さん家族の移住は、バラックマーケットのオーナーであり、20年来の友人が懸け橋となって実現しました。万央里さんの作るお料理やその人柄にファンは多く、平日のランチ時間は満席になることが多いそう。
「お野菜自体が美味しい物が多いので、スパイスなどを使いながら本来のおいしさを引き出してあげられるようなお料理を作るようにしています」と万央里さん。
それは「顔が見える地元の生産者さんから野菜を仕入れて、おいしく調理して提供したい」というオーナーさんの想いともリンクします。


元々、お二人ともフランスでファッション関係のお仕事をしていたそうですね?
(ヒサカワさん)ファッションはトレンドをつくる商売ですが、いまでは旅行に行っても、流行りのブティックよりも「何を食べに行こうか」みたいなフードの話が多いですね。おいしいカフェやおいしいワインも、広い意味でのファッションです。まさか自分たちで八百屋を開くとは思っていませんでしたが、やるからには昔の日本の量り売りのスタイルで、地産地消にこだわりたいと。
今後のお店の展望などはあるのですか?
(ヒサカワさん)大きいお店ではないので、特に宣伝はせずに口コミで地元の人が来てくれればいいなと思っています。もちろん、遠くからは来てほしくないというわけではありませんが、どの地方にもこんなお店が身近な存在としてあればいいなと思います。
今後もお店の形態は変わっていくと思いますが、この場所を生かして続けていけたらいいですね。
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お店のパンフレットに次のような一文が書かれていました。
「郷里の食材や地元の食文化を大切にすることで、健康で、自然環境の保全に貢献し、よりよい生活の安定と向上を目指します」
心と身体の健康は、地元の食文化・食材を一人ひとりが意識的に見直すところから始まるのかもしれません。バラックさんは冬季休暇を終え、4月から通常営業を再開されています。ぜひ、エネルギーあふれるお野菜に会いに行ってみてくださいね。
□ 商品ラインナップ
・野菜
・調味料
・加工食品
・本 など
