PEOPLE売る人

人と人が繋がる。長年通いたくなる心温まる酒屋

“酒屋という商売が好きだし人も好き”と語る店主の相澤節子さん。相澤さんのお酒に対する向き合い方、そしてお酒本来の力を信じる姿勢。相澤さんからお酒を買うとなんだか大切な何かも教えてもらえる気がします。長野県のお酒の素晴らしさをよく理解しているからこそ、長年愛されるお店となって、地域はもちろん県外のファンも多くいらっしゃるのだとか。その魅力を紐解いていました。


相澤酒店 aizawa-saketen

松本駅から徒歩5分。松本の中心地にある相澤酒店。大きな樽の外観が印象的。店内には店主相澤さんが厳選した長野産のお酒を中心におすすめのお酒が並んでいる。店主の相澤節子さんは、酒屋であり唎酒師、長野県原産地呼称管理委員会の日本酒委員会官能審査委員長で、元長野県観光審議委員。さらに、NHK文化センターの「日本酒探訪教室」の講師や、信州大学日本酒同好会顧問なども務める。地元の日本酒やNAGANO WINEの普及のため、精力的に活動中。趣味でもあるお料理を生かし、お酒にあう料理を提案してもらえるのも相澤酒店ならではの楽しみ。県内外ファンが多く、多くの人に親しまれている。

※本記事は2021年5月に取材した内容になります。写真の商品が現在の店頭ラインアップと異なる場合がありますのでご了承くださいませ。

“極めたい”その気持ちから酒屋であり唎酒師に

取材中も和やかな雰囲気で相澤さんの笑顔が溢れていました

このお店は私で三代目になります。継いだ当初から酒屋をやるのであれば徹底的にやりたいという気持ちを持っていました。酒屋を営む中で唎酒師というものがあることを知り、もしこの試験が通れば、何か一歩成長できるような気がしたんです。唎酒師を取得したのはそれがきっかけでした。

この歳まで生きてくると色々と感じることがあります。人生はいいことだらけではないけれど、自分が一生懸命生きて、結果オーライではなくても必ずそこから得るものはある。だから結果オーライになることじゃなくて一所懸命やった上にちょっとだけ嬉しいことがあったり、ちょっとラッキーっと思えることがあれば、それでいいんじゃないかなって思うんです、人生って。

年を重ねてくると、何かわからないことがあったら分かる人には聞けば良いって、素直になるってことが至難の技になってくることもあると思います。「知らない」っていうことが恥ずかしいとか、そんなこと言えば馬鹿にされるとか防御体制が働いてしまうからかもしれません。でも、幾つになっても知らないことは知らないですし、素直になる気持ちを持てるときっと気持ちも楽になれると思うんです。私はなるべくそういう考えを大切にしています。

感謝の気持ちは“直筆”で

こちらは編集部宛にいただいた直筆のお礼のお手紙。相澤さんの温かさが溢れています。

何か気持ちを伝えたいと思ったとき、私は直筆の手紙にすることが多いです。手紙だったらいつでも暇なときに見てもらえるし、電話やメールと違って一日二日は遅れてしまうかもしれませんが、読んでもらえれば気持ちも伝わると思っています。

手書きだとしても印刷して使いまわしてしまえば楽ですが、それぞれお客様は違いますし温度差もあります。その方に合った内容でその時に感じた言葉でお伝えする、それが私自身の基本姿勢というか、これからもなるべく変えないでいきたいと思っている私のスタイルです。

当店はこの時代にネット販売をあえてしておりません。お酒ってつくり手の想いが詰まったものなので、私たち売り手はその“想い”を、買ってくださる方に直にお伝えする義務があると思います。

先日も、以前ご購入してくださった県外の方で、私がお礼の手紙を添えたお客様がいらっしゃったんですが、その方の息子さんが「節子さんに選んでいただいたお酒が美味しかったので、また送っていただけますか」というお電話をいただきました。それも「手紙」があったからこそ繋げることができた縁なんだなと感じます。

自然なスタイルで。お客様との会話を大切に。

こちらは編集部宛にいただいた直筆のお礼のお手紙。相澤さんの温かさが溢れています。

私の接客はどちらかというと気張らず見栄も張らずという感じでしょうか。コロナ禍で当店は店頭販売のみですし色々と厳しいこともありましたが、こういう時だから人の心がよくわかるような気がします。

元々、県内はもちろん県外からご注文をいただくことも多かったので、お酒の話をしていると、お酒に合う料理の話になったりもします。ある日、県外からいらしたお客様と「長野の郷土料理だったらこんなものが合う…」という話をしていると大変興味を持ってくださったので、そのとき家にあるものをちょっとお出ししてみたんです。そうすると「これはすごい!」と喜んでくださいまして、私は料理人でもないし料理研究家でもないのでただ自分が日々食べて美味しいと思うものをお出ししたんですが、お酒に合う料理って、結局そういうことなんだと思うんです。基本お酒が主役ですからね。それがご縁で、その方は遥々福岡から年に2回くらい来てくださいます。

お客様には、お酒そのものの専門知識と合わせて、地元の日本酒やワインが持つ背景や歴史などもご説明しています。聞かれれば、そのお酒に合うお料理なんかもご提案します。でも住んでいる地域によって手に入る食材なども違いますので、あくまでアドバイスです。押しつけるスタイルではなく、長野だったらこんな料理が、きっとお住まいの地域ではこういったものが、というようなご提案をするように心がけています。

店頭には相澤さん直筆の力強い言葉も

肩肘張らない接客を自然とやっているとお客様もたくさん話してくださいますし、“日本酒”が繋げてくれたたくさんの素敵な出会いだと思っています。日本酒って本当に力強さがあって、悲しい時も嬉しい時も人の心に寄り添ってくれるような、だから余計この日本酒はこれからも絶対守って、多くの人に伝えていかなければいけないと思っています。コロナ禍でみなさん大変ですけど、日本酒を生み出した日本人にはその強さがあると思っています。

相澤さんを形成するもの…全ては人の繋がり

色々な肩書きを持っていますが、全て私が開拓したというよりも人との繋がりでやらせていただいているものばかりです。

NHKの日本酒探訪教室の講師になったのは、松本の文化センターの支局長さんだった方がお酒がとても好きで、それを講座にできないかとずっと思っていらしたそうで、縁あって私にお声がけしてくださいました。私にその立場が務まるのかという気持ちもありましたが、お話を聞いてみると、「本当にお酒楽しむ、それが目的です」とおっしゃっていて、そこは共感ができたのでご協力させていただくことにしました。その番組では、一杯をめぐる味とエピソード、空気と水、米と造り様、飲む温度と肴、雰囲気と仲間など、日本酒の味を知り良さを語る、そういったテーマでやらせていただいていました。

その他、信州大学日本酒同好会顧問や、呼称管理委員会などもやらせていただいていますが、直接的に知り合いがいたということではなく、きっとどなたかが推薦してくださったのかなと思います。いつも不思議に思いますが、そういう出会い一つひとつが今の私を作り上げています。

素晴らしい長野県のお酒について

全ての商品に対する想いをお伺いしたくなるほど興味深いお話ばかり

今店頭に並んでいるお酒は大体は私が厳選した長野産のお酒です。

長野県のお酒は、非常にバランスがいいものが多いので、どのお酒も自信を持ってご紹介できます。そして長野県の酒蔵さんは本当に謙虚。それは長野の県民性でもありますが、本当に素晴らしいものをつくっているのだから、このサイトのように何か媒体を通じて発信を手助けしてあげる、そういうことが長野県のお酒には必要だと感じています。

どの蔵の蔵人が実直です。売れるために注目を浴びたいという気持ちよりも、「このお酒飲んでみてください、どうですか?」というように変な邪念もなく、そういう思いでみなさんお酒を造られているので、本当に頭が下がる思いですね。

長野県は個性あるお蔵がたくさんあります。大きい蔵があるというよりも、酒蔵の名前を聞いたらその地域がわかるくらいの規模の酒蔵がたくさんありますし、日本酒に大切な水がいいことと、酒米が豊富にあります。長野県内の酒造好適米は、ひとごこち・金紋錦・美山錦・たかね錦・山恵錦など、本当にたくさんあって、県内で全部間に合うって素晴らしいことだと思いますし、どの蔵も、県内産の酒米でどれだけ美味しいお酒ができるかということを、切磋琢磨しあっているんです。その苦労が色々な品評会などでも評価されて結果も出ていますしから、長野県のお酒づくりに関わっていらっしゃる方々、ぜひ自信を持っていただきたいです。

酒屋という商売が好きだし人も好き

今店頭に並んでいるお酒は大体は私が厳選した長野産のお酒です。

来店してくださる方が、「ばあちゃんに会えたから元気もらった」と言ってくださる方が大勢いるので、それで私も元気をもらっています。

だから本当に、お酒っていうのは人を幸せにしてくれるなと思います。このお酒の持つ力をしっかりと伝えていく、それが私の使命なのかなと思っています。私は小さい頃から酒屋というところで暮らせていることが幸せだなと思うし、お酒が美味しく飲めるってことは健康ということで、笑える仲間と一杯酌み交わせるということはまたかけがえの無い幸せな人生を送っていけるということなので、その楽しさは若い人では伝えられないかもしれませんが、私なら伝えられると思うんです。

基本的に外で飲む時も“楽しいお酒”しか飲んだことがありません。私自身、本当に思うのが周りにいてくださる“人”に恵まれているということです。人と人との繋がりで出会う方々、本当にみなさん魅力的で、そんな素敵な方々と繋がれる・出会えていることを幸せだと思っています。

相澤さんのお酒事情

私はお酒の持つ雰囲気とか力がとても好きなんです。「酒は飲んでも飲まれるな」というのが自分の中でも信念なので、今までで一度もお酒で失敗したことはありません。「あぁ酔ってるな」と感じることはありますが頭の中は冴えたままです。周りからは飲み方が上手と言われたりもしますが、酔っている時ほどちゃんとしなきゃいけないと思うんです。商売のプロとしてという気持ちが強いのかもしれません。

家で飲むときは本当に気軽に、お風呂上がりに湯呑みのような入れ物に日本酒を入れて飲む、その程度です。これが毎日のルーティンのようになっています。おつまみなどもなく日本酒本来の味を楽しみます。

寝る前に飲む、その一杯が健康のバロメータにもなっていて、今日も美味しく飲めた=今日も健康だ、といったように、お酒を美味しく楽しめているうちは自分は大丈夫だなんて思ったりもしています。今日も「あぁ美味しかったな」と思って寝るのが一番好きです。

今後の相澤酒店の目指すところ

大きな樽が存在感ある相澤酒店

接客も生き方も、何事も気張らずに人とのふれあいを自然と楽しんでいるんです。私ができることで他人が喜んでくれることがあったらそれをやればいいし、私が助けてほしいことがあれば素直にお願いすればいいし、そう思えば、人生って案外楽しく送れるのかななんて思います。いかに素直に、可愛らしく歳を重ねていけるか、それが今後の私自身の目指すところですね。

今までもこれからも、来店してくださった方には、地域に根差したサービスと人とのふれあいを大切に、厳選した地酒・地ワイン等の販売を行っていきます。松本という土地を少しでも好きになってくれるような接客ができればと思っています。

お酒と会話で元気になれるお店作りを心がけておりますので、ぜひ気軽にお立ち寄りくださいませ。お待ちしております。

PICK UP!相澤酒店オリジナル日本酒

相澤さんが10数年の歳月をかけ、醸し出したお酒「秘蔵光節」

このお酒は、相澤酒店オリジナルブランドの「秘蔵光節」です。利酒師の私が10数年の歳月をかけ、醸し出したお酒です。現在はこの「山田錦大吟醸光節」ではなく、「亀の尾純米大吟醸光節」の1種類を販売しています。馥郁とした香り、コク、料理との相性、幸せ色の光をまぶしいほど放ち、奥深い心の味を含んだ、ふるさとを感じる様なお酒です。ぜひ店頭で見かけたらお手に取ってみてください。

編集後記

取材スタッフを暖かく迎えてくださった相澤さん。まるで実家に来たような安心感と、次々と出てくる手作りの料理。どれも素敵で気取っていないどこか懐かしくほっとする味わい。料理の中にも相澤さんの愛情がたっぷり込められていました。

また直筆で気持ちを伝えることを大切にしている相澤さん。取材後も取材スタッフに対して達筆な字でお礼状と、お手製の糠漬けをお送りいただきました。
相澤さんの随所随所に愛情と、相手への心ずかい、そして温かさがあり、本当の長野県民のあるべき姿、を見たような気がします。
OSAKE編集スタッフ

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